性感染症とは

性感染症(STI; Sexually-transmitted Infections)とは、梅毒淋菌感染症性器クラミジア感染症性器ヘルペス尖圭コンジローマなど性的接触を介して感染する可能性がある感染症を指します。その他にも性感染症関連疾患も含めて、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症腟トリコモナス症細菌性腟症ケジラミ症性器カンジダ症A型肝炎B型肝炎C型肝炎HIV感染症赤痢アメーバMpox(サル痘)その他の病原体による性感染症などがあります。

性感染症は性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染し、オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。症状として、膿や痛み、痒み、出来物ができたりもします。また治療をせずに放置すると不妊の原因となったり、神経や心臓などの合併症を引き起こし、後遺障害を残したりすることもあります。また、生殖年齢にある女性が性感染症に罹患した場合、母子感染から子供への先天性の障害の原因となることがあります。

性感染症の中には感染しても症状が軽かったり、無症状であることもあるため、感染している人が気付かないままパートナーに感染させてしまうこともあります。このため、何か心当たりや不安に感じたらまずは検査を受けることが大切です。

症状がない場合の検査は自費検査となります。

性感染症の症状

尿道炎、急性精巣上体炎、直腸炎、潰瘍性病変、腫瘍性病変、帯下(おりもの)異常、下腹痛、咽頭炎、結膜炎など

記載されている潜伏期間は病原体に感染してから、初発症状が発現するまでの期間の目安となります。
また検査可能な時期も病気の種類や検査方法によって異なり、検査を受ける日が早すぎると、正確な検査結果がでない場合などがあります。
症状はないが検査をするべきかなど、ご心配なことがありましたらいつでもご相談ください。

参考文献:性感染症 診断・治療ガイドライン2020 編集 日本性感染症学会

梅毒

概要

梅毒は感染症法で5類感染症に位置しており、性感染症の1つです。
ここ近年罹患数が増大傾向にあります。梅毒トレポネーマという細菌が皮膚や粘膜から侵入し、血液やリンパ管を介して全身に運ばれます。その結果、あらゆる臓器に炎症を引き起こし、また他疾患と紛らわしい症状を引き起こすことから、偽装の達人(the great imitator)と異名があります。また早期梅毒は感染からおよそ1年間続き、性的接触での感染力が強いとされます。

症状

梅毒は感染後の経過で第1期から第3期まで分類され様々な症状を引き起こします。性器や口の中に小豆大のしこりや痛みの少ないただれのようなものができたり、肛門や口唇、皮膚症状、眼症状、リンパ節が腫れる、胃潰瘍症状、肝炎症状、糸球体腎炎症状、精神神経症状などあらゆる臓器の病変が認められます。治療をしないまま放置していると、自然に症状が軽快しますが、潜伏梅毒として数年から数十年の間に心臓や脳などの複数の臓器に病変が生じ、死に至ることもあります。

妊娠中の方が梅毒に感染すると、胎盤を通じて胎児にも感染し、早産や死産の原因となります。また生まれてくる子供の骨や神経に異常をきたすこともあり妊娠中の梅毒感染は非常に危険です。

検査・診断方法

症状に加えて、感染機会の有無や採血検査などを施行し診断します。
潜伏期間は3-6週とされ検査可能時期はおよそ感染機会から1か月後以降です

治療法

抗菌薬にて加療します。

淋菌感染症

概要

淋菌感染症は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、性感染症として人から人へ感染するのが主な感染経路です。また、1回の性行為による感染伝達率は高く、30%程度と考えられています。女性淋菌感染症は後述するとおり自覚症状に欠けることがあり、不妊の原因になったり子宮外妊娠や母子感染などの合併症を生じることもあります。

症状

男性では、排尿時痛や尿道よりやや黄色い白みがかった膿がでたりします。また精巣が腫れて熱がでることもあります。女性では、おりものが増えたり、下腹部の痛みや熱が出たりすることもありますが、症状がないこともあります。その他、咽頭の痛みであったり、女性では進行すると不正出血や性交痛、不妊の原因にもなったりします。その他、結膜(眼)や直腸などにも感染し、全身に菌が回ると播種性淋菌感染症となることもあります。

検査・診断方法

尿検査、腟の分泌液検査、咽頭うがい液検査などを施行し診断します。
潜伏期間は2-7日とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。

治療法

抗菌薬治療(点滴など)

クラミジア感染症

概要

性器クラミジア感染症は、Chlamydia trachomatisが性行為により感染し、主に男性では尿道炎や精巣上体炎、女性では子宮頸管炎や骨盤内炎症性疾患を引き起こします。特に女性の感染では不妊の原因になったり、妊娠中だと早期流産になる可能性もあります。

症状

男性では排尿時の痛みや痒み、また尿道から膿が出たりすることもあります。また精巣が腫れて発熱したり、不妊の原因になることがあります。女性では、骨盤内感染を起こすと下腹部痛などを呈することがありますが、症状がないこともあり、進行すると不正出血や性交痛、不妊の原因になります。その他、咽頭や直腸、眼にも感染することがあります。

検査・診断方法

尿検査、腟の分泌液検査、咽頭うがい液検査などを施行し診断します。
潜伏期間は1-3週とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。

治療法

抗菌薬治療

性器ヘルペス

概要

単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の感染によって、性器に浅い潰瘍性または水疱性病変を形成する疾患です。性器ヘルペスは再発性の疾患であり、主に腰仙髄神経節などに潜伏感染します。単純ヘルペスは1型(HSV-1)と2型(HSV-2)の2つがあり、HSV-1は主に顔面、特に口唇に発生し、HSV-2は下半身、特に性器に発生します。性器ヘルペスは主にHSV-2による感染ですが、HSV-1によっても起こります。

症状

男性は性器に違和感やかゆみなどを伴った1-2mmの水疱や潰瘍ができます。また足の付け根のリンパ節が腫れることや発熱を生じることもあります。女性は大陰唇や小陰唇、腟前庭部、会陰部にかけて痛みやかゆみのある水疱や潰瘍ができます。また排尿時痛をきたすこともあります。

検査・診断方法

医師による視診や病変部擦過診(抗原定性(イムノクロマト法)やPCR検査(自費))など
潜伏期間は2-10日とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。
またヘルペスの抗体検査(採血)は当院ではあまりお勧めしておりません。
理由として、陽性の場合でも現在感染しているか過去に感染していたかの区別がつかないこと、水ぼうそうや帯状疱疹にかかったことがある方でもまれに陽性になる可能性があること、陰性でもヘルペスに感染している場合があること(偽陰性)、が挙げられます。

治療法

抗ウイルス薬の内服など

尖圭コンジローマ

概要

尖圭コンジローマは性器へのヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)感染による疾患です。尖圭コンジローマの原因HPVは低リスク型といわれるHPV6型またはHPV11型が約90%を占めています。発癌性と関係する高リスク型といわれるHPV16型またはHPV18型などがほかの部位に同時に感染していることもあり、直腸癌や咽頭癌のリスク、および男性では陰茎癌、女性では子宮頸癌に移行するリスクが高まります。

症状

男性では、陰茎の亀頭や包皮、肛門などに単独または複数の乳頭状、鶏冠状、カリフラワー状の疣贅が発生します。かゆみや軽い痛みを感じる程度で自覚症状はほとんどありません。女性も外陰部や腟、肛門などに男性と同様の所見が発生します。

検査・診断方法

潜伏期間は3週から8か月程度です。
医師による視診にて診断致します。
自費診療においては低リスクおよび高リスクのウイルスがいるかの検査があります(保険適応外)。

治療法

薬を患部に塗る方法や液体窒素療法、外科的に取り除く方法など
また予防に関してはHPVのワクチンが非常に有効です。

マイコプラズマ・
ウレアプラズマ
感染症

概要

非クラミジア性非淋菌性の性感染症の原因である、マイコプラズマ・ジェニタリウム、マイコプラズマ・ホミニス、ウレアプラズマ・ウレアリチカム、ウレアプラズマ・パルバムは、クラミジア感染症や淋菌感染症と同様に、性器や咽頭に感染し症状を発症するとされています。潜伏期間は1-5週と長く、感染していても自覚症状がないことがあり、男性では尿道炎や前立腺炎、精巣上体炎の原因として、女性では卵管炎や腹膜炎および早産や流産、不妊症の原因になるとの報告もあります。特に、近年マイコプラズマにおける薬剤耐性も問題になり治療に難渋する例もあります。

症状

男性:尿道から膿がでる、尿道の痛み、痒み、頻尿、残尿感、陰部の腫れなど
女性:膣分泌物、腹痛、不妊症など

検査・診断方法

マイコプラズマ・ジェニタリウムは、男子尿道炎の原因菌として病原性が立証されたため、マイコプラズマ・ジェニタリウムの1項目のみのPCR検査だけが2022年6月保険適応となります。それ以外の3種は保険適応外(自費診療)での検査となります。
潜伏期間は1-5週とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。

治療法

抗菌薬加療

膣トリコモナス症

概要

膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)原虫による感染症は性感染症の一つです。女性では腟だけでなく、子宮頸管内や下部尿路などにも感染し、パートナーの尿路や男性では前立腺などにも侵入します。男性よりも女性で症状が強く、年齢層も幅広く中高年の方でも見られます。また、無症状のパートナーからの感染や、性交経験のない女性や幼児でも見られることがあり、身に着けている下着やタオル、便器などから感染することが知られています。

症状

男性では尿道炎症状を認めることがありますが一般的には無症状なことが多いです。
女性では泡状で悪臭の強いおりものの増加、陰部や腟の刺激感、掻痒感が特徴です。

検査・診断方法

尿および膣分泌液の培養もしくはPCR検査
潜伏期間は5-14日とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。

治療法

内服または膣錠

細菌性腟症

概要

女性において腟炎・腟症とは、異常なおりものを主訴とする疾患の概念で、その中で細菌性腟症は腟の中の常在菌叢の崩壊により起こり、特定の原因微生物は存在しません。つまり、細菌性腟症とは、腟の中の乳酸桿菌(Lactobacillus)属の菌量の減少に伴い、種々の好気性菌や嫌気性菌が異常に増殖している状態のことをいいます。細菌性腟症は、性的パートナーの多い女性がかかりやすいとの報告はありますが、性感染症とは決めつけられません。

症状

無症状のことが多い

検査・診断方法

問診による分泌物の性状や症状、培養検査など

治療法

膣錠や内服薬

ケジラミ症

概要

ケジラミ症とは、吸血性昆虫であるケジラミ(Phthirus pubis)が寄生することにより発症します。主な寄生する場所は陰毛で性感染症の一つですが、肛門周囲、わき毛、胸毛、眉毛、頭髪などにも寄生します。

症状

寄生した部位の痒みが特徴です。

検査・診断方法

虫体や卵の視診や検鏡、ダーモスコピーなど

治療法

ケジラミが寄生している部位の剃毛や一般市販薬など

性器カンジダ症

概要

性器カンジダ症はカンジダ属の菌によって起きる性器の感染症のひとつです。特に女性では日常頻繁にみられることが多く、男性では少ないとされます。

症状

女性では外陰や腟の痒み、痛み、灼熱感、性交痛、おりものの増量、排尿障害などです。
また女性では膣にヨーグルトのような白色の腟内容物が見られます。ただし、特殊な場合を除き、自覚症状がない、単にカンジダを保有しているだけならば、治療の必要はありません。
また、男性ではカンジダを保有していても症状を呈することが少なく、症状を呈する方としては包茎や糖尿病、ステロイド投与中の方などがいらっしゃいます。

検査・診断方法

女性:腟培養 男性:尿や皮膚の培養 など
潜伏期間は1-7日とされ検査可能時期はおよそ感染機会から24時間後以降です。

治療法

膣錠や内服、軟膏やクリームなど

A型肝炎

概要

A型肝炎はA型肝炎ウイルスにより急性肝炎のひとつです。慢性化することなく自然回復しますが、急性肝不全を併発することもあり注意が必要とされます。糞便-経口感染が基本とされ、性感染症としては肛門-口による性交をきっかけに発症します。

症状

潜伏期間は平均28日(2-7週)とされ、黄疸や発熱、倦怠感、食欲不振、肝臓腫大、灰白色便などのがあります。
検査可能時期は1-3か月以内です。

検査・診断方法

血液検査(IgM-HA抗体)など

治療法

急性肝不全をきたした場合は集学的治療が必要となります。
A型肝炎はワクチンで予防できます。

B型肝炎

概要

B型肝炎は、B型肝炎ウイルスの感染により引き起こされ、血液だけでなく精液や頸管粘液にも含まれるため、性行為にて伝播するとされています。性行為による感染機会ののち2-6週間でHBs抗原が陽性化するとされます。特に日本での急性B型肝炎の多くは性感染症によるものと考えられています。

症状

倦怠感、食欲不振、赤褐色尿や黄疸など

検査・診断方法

血液検査(IgM型HBc抗体)など
潜伏期間は2週-6か月です。

治療法

状態により経過観察や抗ウイルス薬の投与など
B型肝炎はワクチンで予防できます。

C型肝炎

概要

C型肝炎はC型肝炎ウイルスのキャリアからの血液が直接体内に入ることによって感染します。性行為もC型肝炎ウイルスの感染経路の一つでありますが、頻度は低いとされます。

症状

ウイルスに感染してから1-2か月で急性の肝障害の症状が出現しますが、自覚症状の多くは軽い倦怠感や食欲低下などです。

検査・診断方法

血液検査(HCV抗体やHCV-RNA(real-time PCR法)測定)など
潜伏期間は2週-6か月です。

治療法

状態により経過観察や抗ウイルス療法、DAAs治療など

HIV感染症

概要

HIV感染症はレトロウイルス科のヒト免疫不全ウイルス(HIV)による全身感染症です。HIVはウイルスを含んだ血液や体液が粘膜や損傷した皮膚に接触することで感染します。HIV感染症が免疫不全状態まで進行したものをエイズとよび、通常は感染からエイズ期まで3-10年程度と言われています。

症状

感染後より3週間前後で発熱、皮疹、リンパ節腫脹などが見られます。
エイズ期になると免疫不全に伴う多彩な日和見感染症がみられるようになります。

検査・診断方法

病原体検査はスクリーニング検査と確認検査の2段階となります。
潜伏期間は2-4週です。

治療法

抗レトロウイルス薬など
当院ではHIV治療およびPrEP(曝露前予防)およびPEP(曝露後予防)の薬は取り扱いがございませんので、適切な医療機関へのご受診をお勧めいたします。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

赤痢アメーバ

概要

赤痢アメーバは大腸炎や肝膿瘍を引き起こす原虫です。性感染症としての赤痢アメーバは主に口腔-肛門性交がリスクとなります。

症状

数日から数週間持続する粘血便や下痢、便意があるが便が出ない、などの症状があります。肝膿瘍では発熱や、倦怠感、みぎの腹部の痛み、吐き気など認めることがあります。

検査・診断方法

検鏡または糞便のイムノクロマト法(迅速抗原検査)

治療法

内服薬

Mpox (サル痘)

概要

エムポックスウイルス感染による急性発疹性疾患で、2022年以降の世界的流行における感染経路は主に性的接触と言われている。

症状

大部分は軽症であるとされますが、免疫不全の方で播種性病変を生じて重症化することがあります。潜伏期間は3-17日とされておりそれを過ぎると、発熱・頭痛・悪寒・咽頭痛・全身リンパ節腫脹をきたし、その後皮疹が出現します。

検査・診断方法

リアルタイムPCR検査

治療法

特異的な治療法は確立されていません。

性感染症と
認識されていない
病原体による
性感染症

概要

性感染症と認識されていない病原体でも、口腔性交があると尿道炎症状や咽頭炎、亀頭包皮炎などを生じることがあります。性行為の多様化に伴い、感染経路や潜伏期間も様々なため、再発や難治性になることもあり、パートナーを含めた診断、治療が大切です。性感染症と認識されていない病原体による性感染症の代表的なものとして下記に記す微生物があります。

アデノウィルス

アデノウイルスは急性上気道炎や肺炎、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎が代表的な疾患ですが、尿道炎も生じるとされ、日本の報告では尿道炎のうちアデノウィルスは6.6%とされています。膿尿や尿道口の痛み、血尿などを認めることがあります。7日程度で自然治癒するとされています。

インフルエンザ桿菌

インフルエンザ桿菌は呼吸器系の疾患が代表的ですが、口腔性交や肛門性交、膣性交でも感染するとされ、尿道炎や精巣上体炎、精巣炎の報告もあります。日本では尿道炎のうちインフルエンザ桿菌は5.2%とされています。治療には抗菌薬が必要です。

髄膜炎菌

髄膜炎菌は名の通り髄膜炎が代表的な疾患ですが、時に尿道炎、子宮頸管炎、直腸炎を生じることがあります。また、日本の報告では尿道炎のうち髄膜炎菌は1.4%とされています。口腔性交にて伝播し、膿尿や排尿困難をきたします。治療には抗菌薬が必要です。

A群溶連菌

A群溶連菌は咽頭炎が代表的な疾患ですが、性交渉を契機として亀頭包皮炎が報告されています。症状としては亀頭や包皮の発赤やびらん、腫脹や疼痛がみられます。